安部公房の全集に収録されていない3つのテキストが、岩崎努さんにより発見されました。
一つ目は、「アサヒカメラ」(1963年7月号、同誌184ページ)に掲載されている『わが町ー調布』と題した文章で、安部公房の撮影した調布の写真とともに掲載されています。
この記事によれば、安部公房の使用したカメラは、ペトリハーフ7•ペトリ28ミリF2.8•露出EEです。
文章の内容は、甲州街道に沿って散策した折に、安部公房の住むこの町、この地域の見せる昔の姿に言及し、昔の姿を今の感覚で写真撮影する気持ちを書いたものです。この雑誌の読者はカメラ愛好家であることから、光線の微妙な具合やら、EEカメラの感度のよさやら、近景と遠景の関係やら、安部公房のカメラ好きのこころの横溢する文章となっています。
二つ目は、「週刊朝日」(1965年、2月26日号)に掲載された『強烈な現実愛が生む混沌 ヘンリー•ミラー著『ネクサス』他』という題の書評です。
集英社の出した世界文学全集第6巻にヘンリー•ミラーの『ネクサス』を含む巻があり、それを、安部公房が書評したものです。
このアメリカの作家の一行一行には音楽があり、無限のドラマがあると論じ、その様を異様な混沌と呼んでいます。そうして、その混沌の理由をこの作家の優しさに求め、その過剰な現実を愛するこころと、同時に救済を、従って絶望をも拒絶するそのこころの両立を論じ、その勇気を褒めております。
三つ目は、師石川淳の著作『あらたま』(新潮社刊)の帯に書いた安部公房の推薦文です。
この作品の持つ毒を宝石に譬(たと)え、その魅惑を現代の神話と呼んでいます。
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