わたしが何故この漫画を読んだかというと、allenさんが、ヤフー掲示板で、この漫画のことを書いていたからです。
今の所第1巻が単行本で出ています。現在「月刊officeYOU」という雑誌に継続中の漫画です。
この漫画に、安部公房をモデルにした、それにしては安部公房そっくりの作家が出て来ます。それから、もうひとり、安部公房と肝胆相照らした作家、三島由紀夫も登場します。
それぞれ、田部光春という名前、三島由紀夫は、岸場義夫という名前で登場します。光春という名前は、安部公房の実際の弟御の春光さんの名前をひっくり返して(ここが安部公房のセンス)命名したのだと思います。
この作者の言葉によれば、この作品は、1960年代という時代、多分作者が育った時代と、イタリアという、これも作者に「強い影響」を与えた、ふたつの時代を、ジャコモ•フォスカリというイタリア人と日本人の作家たちと、それから近親相姦的な関係にある共に美しい姉と弟、これらの人間たちを巡って話が展開をします。
主人公のジャコモは、子供のころ下僕の子供だったアンドレアに強く惹かれます。その惹かれる理由は、その美しさにありますが、実は、アンドレアが社会の規則の外にいる、貧しいが自由奔放な人間であるからです。
この先、これらの登場人物たちを巻き込んで一体どのような話が展開するのかは分かりませんが、しかし、この作者が何故この物語を書き始めたかは、よく分かります。
それは、やはり、アンドレアという、法律の秩序の外にいる人間に魅力を感じているからです。それを社会的な地位の高い名家の息子、ジャコモの目を通じて、描こうとしているのです。
この同じ動機が、何故この漫画家が安部公房の愛読者であるのかという理由に、そのままなっています。
安部公房を何故好きになって愛読して来たか、その経緯をご自分のブログでお書きになっているので、お読み下さい。また、一部を以下に引用致します。
「かつて留学先のイタリアで貧窮状態に陥っていた頃、私は胃袋を満たせない代わりに安部公房の作品を貪(むさぼ)るように読んだ。安部作品を読む事で惨憺(さんたん)たる自分の生活を漸(ようや)く客観視し、不安定だった精神のバランスを保っていた。イタリアへルネッサンス絵画の勉強に赴いていながら、恐らく当時の私に最も強い影響力を齎(もたら)したのは安部公房だろう。執拗(しつよう)に読み返してしまう幾つもの彼の作品の中でも、世界3カ所にある住処(すみか)全てに常備してあるかけがえのない本が、先のワープロで初めて書き下ろしたという長編『方舟(はこぶね)さくら丸』だ。」
また、この漫画家は、「ワープロと安部文学の見事なコラボの結果として生まれたこの作品を、私はこの作家の生の声を聞く様に何度でも読み返している。」と最後に締めくくっています。
本当に安部公房を読んで、生きて来たのだという思いが伝わって来ます。
相当安部公房のことに詳しい様子で、それは漫画家なのですからそうかも知れませんが、しかし、安部公房がサイダーを満州時代に製造していたこと、オペラ、即ち劇的なものが嫌いな事(それはそうです、安部公房の主人公はみなアンチ•クライマックスを迎えるアンチ•ヒーロばかりです)、ジャコモ(実際にはドナルド•キーン)を麻薬中毒者と決めつけるところ、田部が発明好きで「静電気によるホコリ除去装置」を発明するところ、それから多分本当だったのでしょうが、マリリン•モンローが好きだというようなエピソードなど、ジャコモとの会話の中に、全くマニアックに散りばめています。
追記:
安部公房が春ちゃんと呼んでいたというエピソードは、「 郷土誌あさひかわ」 H24年10月号の北川幹雄氏の文章に載っているとのことです。allenさんからのご教示をいただきました。
追記:
安部公房が春ちゃんと呼んでいたというエピソードは、「
[岩田英哉]
今、実家にいます。
返信削除iPod touchでアクセスしています。
田部光春だったような気が。あれ、弟春光氏の逆さまだ。
また、当該エッセイは、ブログではなく、朝日新聞の記事ではないですか?
allenさん、コメント多謝。漫画で確認しました、田部光春です。実際の弟さんの名前は春光さん。安部公房が春ちゃんと読んでいたという文章をどこかで最近読んだことがあります。
返信削除それから、当該エッセイは、わたしが見付けたのはブログでした。あるいは多分朝日新聞にも寄稿して、それをブログに転載したのかも知れませんね。
わたしはGoogle Alertに安部公房を登録しているので、ネット上で記事があると、それを拾ってくれるようになっています。ブログにあることは間違いありません。
安部公房が春ちゃんと呼んでいたというエピソードは、「郷土誌あさひかわ」H24年10月号の北川幹雄氏の文章に載っています。
返信削除ブログの件、了解です。失礼しました。
『反劇的人間』(安部公房、ドナルド・キーン共著)を読み返してビックリしました。『ジャコモ・フォスカリ』の中のジャコモと田部の発言そのものがあったからです。
返信削除第6章 音楽とドラマ 歌劇とミュージカル
安部 どうもぼくはオペラの魅力というのはわからないんだな。
(しばらく後)
安部 マリア・カラスがそんなによかったら、ほかの登場人物は出なくてもよかったんじゃないですか。
ドナルド・キーンによる「あとがき」で
安部に日本酒の炭酸ソーダ割り(即席シャンパンのつもりだったらしい)を飲まされて、麻薬中毒者かどうかのテストをされたエピソードが書かれています。
では、失礼します。
allenさん、コメントありがとうございます。
返信削除いやあ、ヤマザキマリさんの安部公房フリークというのか、マニアというのか、その程度や恐るべしですね。
これは、もう全くこの漫画を書いて、ひとり悦に入っている姿が思い浮かびます。
いや、漫画の解読、ありがとうございました。
これは、安部公房解読工房としても、初の漫画の解読ではなかったでしょうか。
引用というもの、mode(話法)というものは、奥が深いですね。
漫画は好きですが、安部公房が出てくる漫画は、他に見たことが無いです。この作品は、Google+の友人から紹介してもらいました。
返信削除ブログ記事にまとめて下さったiwataさんに感謝です。
マリリン・モンローの件、安部公房全集で調べました。2件見つかりました。
返信削除まず、全集008所収『実験美学ノートー「LSD」服用実験をみて』の中の一節「モンローの乳房」
「まるでホルスタイン乳牛のおっぱいのようで、そのグロテスクさは、全アメリカ女性の恥辱である・・・・・・というわけだ」
これは安部が言っているわけではなく、週刊誌で読んだ、アメリカのブラジャー業者のモンロー批判の一言です。
次に、全集016所収『モンローの逆説』
モンローファンであった安部が、彼女の死を悼んでいます。
allenさん、
返信削除コメントありがとうございます。詳しく調べて下さって。上の2件の文章、早速読んでみます。もし安部公房がアメリカ論を完成させていたら、きっとマリリン•モンローも出て来たかも知れませんね。