安部公房の箱根の仕事場の不思議な木組みの枠の謎を解く
箱根の仕事場を訪ねて、山荘の裏側の溝の上に次のような木でできた手製の枠組みのあるのを発見しました。一人で住んだ、間違いなく、安部公房の手になるものでありましょう。もぐら通信第49号には掲載しなかった写真(上)を入れて、これをお伝えします。
これに、しかし考えてみれば、そっくりなものを、私たちは知っております。それは、『箱男』の写真8枚のうちの1枚で、男子便所の写真の下にある次の詩のことです。
「滑り止めの溝を刻み、枯葉色のぶちを散らせた堅焼きの白タイル。その溝を伝って静かにうねっている、細い水の流れ……いったん水溜りをつくり、再び流れ出し、ドアの下に消える。」(全集第24巻、110ページ)
安部公房がカメラを「奉天の窓」以来の窓として、外界を眺めるときの窓であることは、『もぐら感覚5:窓』にて論じた通りです。
そして、これら8枚の写真は丁度葬儀の祭壇の写真の様に太い黒枠で囲まれている。窓の向こうが死者たちの世界なのか、それとも窓のこちらの箱男が死者であるのか。その交換関係を成立させるのが、この窓であり窓枠です。
さて、上の詩を読めば、この木組み細工の枠も、窓の一種なのであり、「その溝を伝って静かにうねっている、細い水の流れ」を、この窓に依って安部公房は一人観察したものでありましょう。最晩年のリルケのように本当に孤独な、しかし幸せな安部公房。
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