安部公房と村上春樹:『方舟さくら丸』と『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』
備忘として次のように書いておきたい。以下『安部公房と寺山修司の関係を論ずるための素描(2):1980年代の方舟と箱舟』からの引用を:
「1984年11月に、安部公房は『方舟さくら丸』を出版。
1984年9月8日に、寺山修司は、ドナルド・キーンさんに薦められて読み安部公房も高く評価したガルシア・マルケスの小説『百年の孤独』を映画化した作品『さらば、箱舟』を発表。:https://www.youtube.com/watch?v=_XZodPr9UlA」
(『安部公房と寺山修司の関係を論ずるための素描(2):1980年代の方舟と箱舟』参照:https://abekobosplace.blogspot.jp/2016/07/blog-post_18.html)
そうして、1985年6月15日に、村上春樹は『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』刊行。
同じ時期に、この3人が互いに通じ合う題名の作品をそれぞれ発表したことは興味ふかい。
ここでは、安部公房と村上春樹のそれぞれの小説の題名を比較してみよう。
『方舟さくら丸』は、地上は核戦争を前提にした(安部公房の語彙を使えば)「ご破算」の世界、そうして、地下に「さくら丸」という此の「さくら」という名前から判る通りに贋の船という二重の意味を掛けた方舟が石切り場という闇の中、夜の中に浮いている。
他方、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』は、その名前からいって、やはり「世界の終わり」というご破算の世界があり、「ハードボイルド・ワンダーランド」とは、安部公房の世界の「方舟さくら丸」ならば、それは主人公にとって不思議の国であり、「ワンダーランド」である。
違うのは、「ハードボイルド」ワンダーランドの「ハードボイルド」というところだけが異なるが、村上春樹は、この「ハードボイルド」という形容にどのような意味を、小説の構成上付与したものか。
もっとも、安部公房の作品はみな、その文体はハードボイルドだと言えば、すべてハードボイルドである。
以下、Wikipediaによる定義:
「ハードボイルド(英語:hardboiled)は、感傷や恐怖などの感情に流されない、冷酷非情、精神的肉体的に強靭、妥協しないなどの人間の性格を表す言葉である。
文芸用語としては、暴力的・反道徳的な内容を、批判を加えず、客観的で簡潔な描写で記述する手法・文体をいい、アーネスト・ヘミングウェイの作風などを指す。また、ミステリの分野のうち、従来あった思索型の探偵に対して、行動的でハードボイルドな性格の探偵を登場させ、そういった探偵役の行動を描くことを主眼とした作風を表す用語として定着した。」(https://ja.wikipedia.org/wiki/ハードボイルド#.E6.97.A5.E6.9C.AC)
そして、Webster Onlineによれば、
- 「to cook (an egg) in the shell until both white and yolk have solidified」
- (http://www.merriam-webster.com/dictionary/hardboiled)
この英語の定義によれば、
ハードボイルドとは、白身も黄身も固くなるまで、卵の殻の中で卵を料理すること
とあるので、その間、白身であれ黄身であれ、この二つの関係が敵にしろ味方にしろ、二項対立など無関係に、一切関係など顧慮せず、いづれにせよ、残酷なまでに徹底的に煮て、柔らかなものが固くなるま徹底的に、情け容赦なく、料理をする、料理をして美味いものを作ることが大事なのだ
という意味になるだろう。
安部公房の『方舟さくら丸』は、確かにそういう作品である。村上春樹の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』は、如何なるらむ。
0 件のコメント:
コメントを投稿