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2016年10月24日月曜日

安部公房と倉橋由美子

安部公房と倉橋由美子


安部公房全集で検索すると、倉橋由美子の作品について書いている文章は、一つしかありません。

それは、『聖少女』という作品です。『聖少女』は1965年9月新潮社より刊行。

この作品に対する安部公房の批評文です。この長さから言って、当時出版されていた新潮社の箱入りの新作書き下ろしものの一冊の帯の文でもあったかと思われます。ここに安部公房が書いている最後の一行は、このまま倉橋由美子の世界の正確な理解になっています。何故ならば、倉橋由美子の朗読による自作『ある老人の図書館』は、誠にバロック的な構造をした図書館の世界を描いたものであるからです。

これは『老人のための残酷童話』 (講談社文庫)所収の一つです。

一本の廊下(安部公房ならば位相幾何学的に「道」というでしょう)、それも螺旋状の構造をしている廊下からなる図書館の話です。

この朗読は、この作品の最初の方の一部ですが、次のURLで作者自身による朗読を聴くことができます。傾聴に値します。


また、この朗読をお聞きになって、次の安部公房の批評が的確であることもまた、最後の一行で理解することができます。

倉橋由美子は、安部公房の読者によって、再び読まれるべき作家であると、さう思います。

安部公房の短評:

これは、はなはだ技巧的な、男女の葛藤の物語である。とつぜん、霧の中から湧いて出たような、記憶を失った少女。その少女の内部にせまり、実体を与え、自分の内に接木しようと努力する青年。だが一切は、嘘という優美な刃物にほんろうされて、霧はますます深まってゆくばかりなのだ。しかも読者を不思議に硬質な認識に導いてくれるのは、方法として自覚されつくした、うその美学にちがいない。現に私は、この男女の関係を、いつのまにか、存在と本質の物語として読みとっていたものである。

[1965.9.10]

(安部公房全集第19巻、319ページ)

また、倉橋由美子のWikipediaによれば、「1980年代以降、日本の作家の中ではかなり早期にワープロを用いた執筆を開始していた。」とありますので、そういう意味でも、安部公房に親しい作家です:https://ja.wikipedia.org/wiki/倉橋由美子





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