安部公房の初期の短編に、夢の逃亡という小説がある。
これを読んでいると、その後の生涯に亘って、他の作品にも現れるイメージや発想が、実に詩的に現れることに気づく。
愛だけが法則を無視した飛行をする。
という一行の前後は、遺稿となった「飛ぶ男」の形象である。
また、塀という形象もでてくる。
これは、勿論、「終わりし道の標に」にも最初に出て来る形象であるが、今「夢の逃亡」に同じ形象が出て来て思うことは、塀とは、この世界の謎、謎の世界、世界は謎であるということの表現であり、象徴であるということだ。
(そうして、この塀は、後年様々に変形して、例えば、壁と呼ばれ、砂と呼ばれ、迷路と呼ばれ、箱と呼ばれる。)
安部公房のテキストは多義的であり、本人もそれを十分意図的に意識している。
そのような多義的な自分の作品のありかたを、どこかで、テントを張って、骨組みをすっかり消してしまうという、そのような構築物の譬喩として、述べている。
この骨組みをすっかり外したテントという形象、イメージは、そのまま安部公房の言語の形象であり、イメージなのです。
安部公房の言語論については、稿を改めて論じたいと思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿