マルテの手記14:無名と夜
無名と夜という主題は、初期の安部公房に顕著な主題です。勿論、初期だけにそうだったわけではなく、この主題は生涯のテーマであった筈のテーマです。どの主人公も無名であるということを見れば、どの主人公も夜に生きていた人間達だと言い換えることが、容易にできます。
ここは、詩人についての考察のところです。望月訳を引用します。
「 君の噂をしてくれるようにとだれにも頼むな、さげすんだ噂でも。時節が来て君の名前が世間にひろまり始めたことを知ったら、世間のどんな噂にもましてそれを顧みるな。君の名前はよごれたものと考えて捨てたまえ。そして、神が君を深夜に呼ぶことができるようになにか新しい名前をつけたまえ。そして、その新しい名前をだれにも告げるな。」
このこころは、リルケを耽読し、リルケに耽溺し、惑溺して読んだ10代の頃から、終生、安部公房のこころでありました。
(この稿続く)
[岩田英哉]
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