マルテの手記16:隣人
隣人という他人、他者は、安部公房の終生のテーマのひとつであった。
これは、マルテの隣人観。望月訳から。
「 目に見えるだけではすこしも害にならない人間がいる。僕たちはそういう人間にはほとんど気がつかないで、すぐにまた忘れてしまっている。しかし、そういう人間がどうにかして目に見えるのではなくて、耳に聞こえると、耳の中で育ち、いわば孵化し、場合によっては、犬の鼻孔からはいりこむ肺炎菌のように、脳の中へまで匐(は)いり、脳髄を食い荒らしながら成長する。
それは隣人である。
僕はひとりぼっちで漂白するようになってから、数えきれないほど多くの隣人を持った。(略)隣人はそのたぐいの生物と同じく、僕たちのある組織内に生じさせる障害によってのみ存在を感じさせるのが特徴である。」
(この稿続く)
[岩田英哉]
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