マルテの手記8:笛
マルテの手記に初めて出て来る笛を引用します。
安部公房の初期の詩集に、笛という言葉が出て来ます。その笛との関係は直接あるようには、見えませんが、安部公房が詩を歌うためのモチーフとして、マルテの手記の笛に習ったということがあるかも知れないと思いますので、ここに備忘のために残すものです。
「わたしの内蔵は、煮えたぎって、やもうとはしない。みじめな時が、私におそいかかった……私のハープはなげきの声となった。私の笛は号泣となった。」
「私のハープはなげきの声となった。私の笛は号泣となった。」とある、このところは、わたしがハープであって、そのわたしが嘆き声をあげ、わたしが笛であって、わたしという笛が号泣するように読まれます。
他方、安部公房の「無名詩集」の「其の四」と題した詩は、次のような詩です。
「白樺の枝二つ三つ
手折りて童(わらべ)
笛を作りぬ
遥かなる想ひの如く
しのびよる夕と風に
その心 重かりき
その故か その心
あまた憧れの音(ね)にみちたれど
笛は鳴らざる
風よりもなほ微かにて」
これと類似の詩が、最近発見された未発表作品「天使」には、歌われています。
これらの詩についての、詳細な論考は、岩井枝利香さんが、もぐら通信(第4号)に「私論 安部公房「天使」と題して論じていますので、その論考をご覧下さい。ダウンロードは、次のURLアドレスから:http://w1allen.seesaa.net/category/14587884-1.html
この詩の笛は、白樺の枝からつくられています。初期の詩には、幾つかの詩で、白樺が出て参りますが、もしマルテの手記にこの木のことが、もし出て来たら、そこで取り上げたいと思います。
(この稿続く)
[岩田英哉]
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