マルテの手記7:内部と外部の交換
マルテは、前回の廃墟となった、崩壊した家を見た後で、その恐怖心からすっかり疲れてしまい、その後もパリの町の中を彷徨して様々なものをみて、更に一掃疲れ果てるのです。そうして、内部と外部の交換を、生理的な感覚とともに経験します。望月訳です。
「たぶんなにもが動かなくて、僕と人々との頭のなかがぐるぐるまわっていて、そのためにすべてがぐるぐるまわるように感じられたのだろう。僕はそれについて考えている余裕はなかった。びっしょりと汗をかいて、血のなかになにかひどく大きな塊がはいりこんで、それが血管を押しひろげながら移動しているかのように、しびれるような痛みが全身をまわっていた。そして、空気がさっきからなくなって、吐き出した空気を再び吸い込み、肺がそれを受けつけないのを感じた。」
安部公房の作品すべて、一生涯に書いた詩にも論文にも小説にも劇作にもエッセイにも、それらに共通することをひとつ挙げよと言われたら、わたしは躊躇することなく、この、内部と外部の交換と、その生理的な感覚を真っ先に挙げることでしょう。
この箇所以外にも、内部と外部の交換は、まだまだ出て来ますが、まづは最初の箇所の言及に留めます。
(この稿続く)
[岩田英哉]
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